遺言書作成で失敗しない進め方と必要書類・費用を解説

こんにちは。こだま司法書士です。

遺言書を作成した方がよいのか、自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらを選ぶべきか、不動産や相続登記まで考えると何を書けばよいのか、不安に感じている方も多いと思います。

遺言書は、亡くなった後の財産承継や遺言執行者を定めるための大切な書面です。一方で、方式に不備がある、財産の特定が不十分、遺留分への配慮が足りない、相続人間で解釈が分かれる、といった状態では、かえって相続手続きが止まることもあります。

この記事では、遺言書を作成する目的、検討した方がよいケース、自筆証書遺言と公正証書遺言の違い、自筆証書遺言書保管制度、遺留分、遺言執行者、不動産がある場合の相続登記との関係、司法書士が支援できる範囲まで整理します。

  • 遺言書を作成する目的と検討すべきケース
  • 自筆証書遺言と公正証書遺言の違い
  • 遺留分・遺言執行者・不動産の注意点
  • 司法書士へ相談する前に準備する資料

遺言書作成でまず決めること

遺言書を作るときは、最初に「誰へ、どの財産を、どのような理由で承継させたいのか」を整理します。方式だけを先に選ぶのではなく、家族関係、財産の種類、将来の相続登記、相続人間の関係まで確認することが大切です。

遺言書作成に向けて家族関係と財産を整理する日本人夫婦

遺言書を作成する目的

遺言書の中心的な役割は、亡くなった後の財産の承継先や手続きの進め方を、本人の意思として明確に残すことです。遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、不動産や預貯金などを誰が取得するかを決める必要があります。

相続人全員の関係が良好で、財産も単純であれば、協議でまとまることもあります。しかし、不動産がある、相続人の一部が遠方にいる、再婚家庭である、子どもがいない、特定の人へ多く残したい、といった事情がある場合は、遺言書があることで相続手続きの見通しを立てやすくなります。

特に独身で持ち家があり、法定相続人がいない可能性や、内縁のパートナー・友人・団体へ財産を残したい希望がある場合は、死後の承継先を早めに整理しておく必要があります。詳しくは、独身で持ち家がある場合の死後の備えも参考にしてください。

遺言書は、相続人の話し合いを不要にする魔法の書面ではありません。ただし、本人の意思を明確にし、相続登記や預貯金の手続きを進める重要な根拠になります。

遺言書は、生前の財産管理を行う制度ではありません。判断能力が低下した後の預貯金管理、不動産管理、施設入所契約などを考える場合は、任意後見や家族信託など別の制度も検討します。生前の財産管理も含めて整理したい場合は、生前対策・認知症対策の進め方もあわせて確認してください。

遺言書が必要になりやすいケース

遺言書は、財産が多い方だけのものではありません。相続人の人数や財産額が少なくても、遺言書がないことで手続きが難しくなる場合があります。

状況 遺言書で整理したいこと 注意点
夫婦に子どもがいない 配偶者へ財産を残す意思 兄弟姉妹などが相続人になる場合がある
再婚し、前婚の子と現在の配偶者がいる 各相続人への配分や不動産の取得者 遺留分や感情面への配慮が必要
内縁の配偶者やお世話になった人へ残したい 相続人ではない人への遺贈 税務、遺留分、遺言執行者を確認する
不動産を特定の人へ承継させたい 土地や建物の取得者 登記簿上の表示で財産を特定する
相続人の中に認知症や未成年者がいる 遺産分割協議を避ける設計 成年後見や特別代理人が必要になる可能性
相続人がいない 寄付や特定の人への遺贈 遺言執行者を指定しておく重要性が高い

亡くなった後に借金が見つかる可能性がある場合は、遺言書だけでなく相続放棄の期限にも注意が必要です。相続放棄は遺言書とは別の手続きであり、原則として自己のために相続が開始したことを知った時から3か月以内に家庭裁判所で行います。詳しくは、相続放棄の期限と注意点をご確認ください。

自筆証書遺言と公正証書遺言

通常よく検討される遺言方式は、自筆証書遺言と公正証書遺言です。どちらにもメリットと注意点があるため、財産内容や家族関係に合わせて選びます。

方式 作成方法 主なメリット 主な注意点
自筆証書遺言 遺言者が本文、日付、氏名を自書し、押印する 自分で作成しやすく、費用を抑えやすい 方式不備、紛失、改ざん、検認の要否に注意
公正証書遺言 公証人が関与し、証人2名の立会いのもと作成する 方式不備のリスクを抑えやすく、検認が不要 公証人手数料、証人、資料準備、日程調整が必要
秘密証書遺言 内容を秘密にしたまま公証人等へ存在を証明してもらう 内容を秘匿しやすい 実務上は利用場面が限られ、方式確認が難しい

自筆証書遺言は、民法上、遺言者が全文、日付、氏名を自書し、押印する必要があります。財産目録については、自書によらずパソコンで作成したり、不動産の登記事項証明書や通帳のコピーを添付したりできる場合がありますが、その場合も財産目録の各ページに署名押印が必要です。

「令和8年6月吉日」のように日付が特定できない記載は避けます。訂正や追加にも法律上の方式があるため、重要な修正がある場合は書き直しを検討した方が安全です。

自宅で自筆証書遺言を慎重に作成する日本人高齢男性

自筆証書遺言書保管制度

自筆証書遺言を作成する場合、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用できることがあります。この制度では、法務局で遺言書を保管し、形式面の外形的な確認を受けることができます。

制度を利用すると、遺言書の紛失や破棄、隠匿、改ざんのリスクを抑えやすくなります。また、法務局で保管されている自筆証書遺言に関して交付される遺言書情報証明書は、家庭裁判所の検認が不要です。

2026年2月2日から、保管申請書、添付書類、遺言書の形式面について、電子メールで事前チェックを受けられる遺言書保管所が39都道府県・68か所へ拡大されました。希望者が対象保管所へ申し込む任意の試行運用であり、遺言内容の法的な有効性を確認するものではありません。

メール事前チェックは、保管申請の完全オンライン化ではありません。事前チェック後も予約を取り、遺言者本人が遺言書保管所へ来庁して、遺言書と必要書類の原本を提出する必要があります。利用できる保管所と受付方法は、申請前に法務省の自筆証書遺言書保管制度の案内で確認してください。

自筆証書遺言書保管制度は、遺言内容の有効性そのものを保証する制度ではありません。法務局では、誰にどの財産を残すべきか、遺留分へどう配慮すべきかといった内容面の相談には応じられないため、内容設計は別途確認が必要です。

保管制度を利用する遺言書には、A4用紙、余白、片面記載、ページ番号などの様式上のルールがあります。民法上は有効でも、保管制度の様式に合わないため預けられない場合がある点にも注意します。

公正証書遺言の作成方法

公正証書遺言は、公証人が関与して作成する遺言です。通常は、公証人へ事前に相談し、遺言内容のメモや必要資料を提出し、公証人が案を作成したうえで、作成当日に遺言者本人が証人2名の前で内容を確認して作成します。

公正証書遺言では、遺言者本人の本人確認資料、相続人との続柄が分かる戸籍、不動産の登記事項証明書や固定資産評価証明書、預貯金資料などが必要になります。財産を相続人以外へ遺贈する場合は、その人の住所等が分かる資料も確認します。

証人2名は、遺言者側で用意することもできますが、未成年者、推定相続人、受遺者、これらの配偶者や直系血族などは証人になることができません。適当な証人が見つからない場合は、公証役場で紹介を受けられることがあります。

公正証書遺言の作成方法を専門家へ相談する日本人家族

公正証書遺言は家庭裁判所の検認が不要で、公証役場に原本が保管されます。一方で、公証人手数料、証人、資料準備、日程調整が必要になるため、余裕をもって準備することが大切です。

遺言書作成サポートの実務

ここからは、遺言書の内容を設計するときに特に問題になりやすい遺留分、遺言執行者、不動産、認知能力、必要書類、専門家の役割を整理します。

遺留分と遺言執行者

遺言書では、本人の意思に基づいて財産の承継先を定めることができます。ただし、一定の相続人には遺留分が認められており、遺言内容によっては相続開始後に遺留分侵害額請求が問題になることがあります。

遺留分は、遺言書を作れば常に無視できるものではありません。たとえば、一人の相続人へ全財産を相続させる内容にする場合でも、他の相続人の遺留分、相続開始後の生活、不動産を売却しないと支払えない金銭負担などを検討しておく必要があります。

また、遺言書では遺言執行者を指定できます。遺言執行者は、遺言内容を実現するために必要な手続きを行う立場です。預貯金の解約、不動産の名義変更、受遺者への財産引渡しなど、遺言の内容によって役割が変わります。

遺言執行者を指定しておくと、相続開始後の手続きの窓口を整理しやすくなります。特に、相続人以外へ遺贈する場合や、不動産・預貯金が複数ある場合は、誰が実務を進めるかまで考えておくことが重要です。

不動産と相続登記の注意点

遺言書に不動産を記載する場合は、住所ではなく登記簿上の所在、地番、家屋番号などで特定することが重要です。住居表示と地番は異なることがあるため、固定資産税の納税通知書だけでなく、登記事項証明書や登記情報を確認して記載します。

不動産を特定の相続人へ承継させる遺言がある場合でも、相続開始後には法務局で相続登記を申請する必要があります。遺言書があるからといって、登記名義が自動的に変わるわけではありません。

不動産を含む遺言書と相続登記について専門家へ相談する日本人男性

相続登記は2024年4月1日から義務化されており、相続や遺贈により不動産を取得した相続人は、原則として不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があります。遺言書を作る段階でも、将来の相続登記に使いやすい記載になっているか確認します。

相続登記の期限や必要書類については、相続登記の期限・必要書類・費用で詳しく整理しています。不動産登記全体の種類や基本を確認したい場合は、不動産登記の基本と手続きも参考になります。

認知能力が低下する前の準備

遺言書を作成するには、遺言内容とその法律上の効果を理解し、自分の意思で判断できる能力が必要です。認知症と診断されたことだけで直ちにすべての遺言が無効になるわけではありませんが、症状や遺言内容によっては、相続開始後に遺言能力が争われる可能性があります。

判断能力に不安が出てから慌てて作ると、本人の意思確認、医師の診断、面談記録、内容の複雑さなどが問題になりやすくなります。遺言書は、できるだけ本人が元気で、財産内容や家族関係を落ち着いて整理できる時期に検討することが望ましいです。

すでに判断能力が大きく低下している場合は、遺言書の作成が難しいことがあります。その場合、財産管理や契約代理については成年後見制度などを検討する場面があります。詳しくは、成年後見サポートの内容をご確認ください。

遺言書は死亡後の財産承継を定める制度であり、生前の預貯金管理や介護施設との契約代理を直接行う制度ではありません。生前の支援と死亡後の承継は、分けて設計する必要があります。

必要書類と手続きの流れ

遺言書作成の準備では、財産と相続人を確認し、本人の希望を具体的な文案へ落とし込みます。特に不動産がある場合は、登記簿上の表示を正確に確認します。

資料 確認する内容 注意点
戸籍謄本など 推定相続人や家族関係 誰が相続人になるかを整理する
登記事項証明書 土地・建物の所在、地番、家屋番号 住居表示ではなく登記簿上の表示を使う
固定資産評価証明書等 不動産の評価額 公正証書遺言の手数料や相続登記費用の検討に使う
預貯金・証券・保険の資料 金融機関、支店、口座、契約内容 財産目録を作る際に特定しやすくする
本人確認資料 遺言者本人の確認 公正証書遺言では印鑑証明書等が必要になる
希望内容のメモ 誰へ何を残したいか 理由や優先順位も整理しておく

一般的な流れは、財産の棚卸し、相続人の確認、遺言内容の検討、方式の選択、文案作成、公証役場や法務局との手続き確認、署名押印または公正証書作成、保管方法の確認という順番です。

財産の全体像が曖昧なまま遺言書を作ると、後から記載漏れや解釈の問題が出ることがあります。まず財産を整理したい場合は、財産・生活の整理で確認することも参考にしてください。

費用と専門家の役割

遺言書作成にかかる費用は、選ぶ方式、財産の数、文案作成の難易度、公正証書にするかどうか、専門家へ依頼する範囲によって変わります。

公正証書遺言では、公証人手数料が財産の価額や受け取る人ごとに計算されるほか、正本・謄本の交付、出張が必要な場合の日当や交通費などが発生する場合があります。司法書士へ依頼する場合は、財産調査、相続関係の確認、文案整理、公証役場との事前調整、不動産登記の見通し確認など、依頼範囲に応じた報酬が必要です。

司法書士は、不動産登記、相続登記、遺言書作成支援、遺言執行、裁判所提出書類作成など、司法書士の業務範囲内で支援します。相続人間ですでに争いがある場合、代理交渉や訴訟対応が必要な場合は弁護士への相談が適しています。相続税、贈与税、税務申告、節税効果の判断は税理士の専門領域です。

こだま事務所では、遺言書作成に向けた財産・相続人の整理、不動産がある場合の登記上の確認、公証役場との手続き準備などを、司法書士の業務範囲内で支援します。紛争性や税務判断がある場合は、弁護士・税理士等との連携を検討します。

よくある質問

自筆証書遺言は自分だけで作れますか

作成自体は可能です。ただし、全文、日付、氏名の自書、押印、財産目録の署名押印、訂正方法など、方式に不備があると問題になる可能性があります。内容が複雑な場合や不動産がある場合は、事前確認をおすすめします。

メールだけで遺言書の保管申請を完了できますか

できません。一部の遺言書保管所で行われているメール事前チェックは、申請書、添付書類、遺言書の形式面を来庁前に確認する任意の試行です。保管申請を完了するには、従来どおり遺言者本人が予約した遺言書保管所へ来庁し、原本を提出する必要があります。

公正証書遺言なら絶対に争いを防げますか

公正証書遺言は方式不備や紛失のリスクを抑えやすい方式ですが、遺留分、遺言能力、財産の配分理由などをめぐって争いが起きる可能性がゼロになるわけではありません。内容面の設計も重要です。

遺言書があれば相続登記は不要ですか

不要にはなりません。不動産を取得する人が決まっていても、相続開始後には法務局で相続登記を申請する必要があります。遺言書は、その登記申請の重要な根拠資料になります。

認知症と診断された後でも遺言書を作れますか

診断名だけで一律に判断されるわけではありません。作成時に遺言内容と結果を理解できる状態か、遺言内容が複雑すぎないか、医療記録や作成経緯を残せるかなど、個別に慎重な確認が必要です。

遺言書で家族信託や任意後見の代わりになりますか

なりません。遺言書は死亡後の財産承継を定める制度です。生前の財産管理や契約代理は、任意後見、家族信託、委任契約など別の制度で検討します。

遺言書作成サポートのまとめ

遺言書作成では、方式を選ぶ前に、誰へどの財産を承継させたいのか、不動産をどう特定するのか、遺留分へどのように配慮するのか、誰が相続開始後の手続きを進めるのかを整理することが大切です。

自筆証書遺言は自分で作成しやすい一方、方式不備や保管方法に注意が必要です。法務局の自筆証書遺言書保管制度を使うと、紛失や検認の負担を減らせる場合があります。公正証書遺言は、公証人と証人2名が関与し、検認が不要で、原本が保管される点に特徴があります。

不動産がある場合は、登記簿上の表示で財産を特定し、相続開始後の相続登記まで見据えて文案を作る必要があります。認知能力が低下してからでは作成が難しくなることもあるため、元気なうちに財産と家族関係を整理しておきましょう。

制度、必要書類、手数料、手続きの取扱いは変更される場合があります。正確な情報は公式サイトをご確認ください。個別事情によって適切な遺言内容や専門家の関与範囲は異なるため、最終的な判断は専門家にご相談ください。

参考となる公式情報

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